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認知的不協和という諸刃の剣,転職の悩み,思考のストレスを大事にする.

私事,転職の悩み,そこに潜むであろう認知的不協和.

手前味噌な話で大変恐縮ではあるが,最近転職活動をするかどうか決めきれずに苛まれている(転職するかどうかではない,転職活動をするかどうかだ).私は,自分はお金が欲しがる一面があると認識してて,その認識は今も変わっていない.だから私のサラリーマン稼業の目的は"生存のために貨幣を稼ぐ一手段の手段"だ.若い時からなるべく多くの収入を得てキャッシュフローを最大化し,fxxc in money(自分の意思に反して上司や顧客に媚び諂うようなことをしなくてもよいお金のこと)を形成したいと考えている.

転職を検討する理由はサラリーマンの真の目的を考えたときに,今の勤め先ではなんとなく限界が見えてしまっているからだ.「仕事,つまんないな」と思ったときに辞められる選択肢(オプション)があることはとても魅力的であり,資産があることはその一手段としてとても強力だ.どうせ仕事をするにしても「生きるためにイヤイヤ」ではなく「自己実現,人生の有意義な暇つぶしとして楽しく」やっていきたい.だったらさっさと転職すれば良いという話になるがイマイチ踏ん切れない.

この思索を頑張って客観視すると「自分は認知的不協和に陥っているのでは?」と思えてくる.「転職をしたら良い未来があるかもしれない」という認識と「転職は痛みを伴う」という認識が頭の中で不毛な争いをしている.その折衷案として,転職を否定する理論をでっち上げて現状維持で止まろうとする自分がいる.

例外はあるだろうが,転職は何らかの痛みを伴うものだと思う.今の職場,人間関係を断ち切る痛み,「辞める」という後戻りできない決意を伝えるときの覚悟,今いる安定した環境から不確実で先が見えない進路に舵を切ることに対する恐怖がそれにあたる.

これらを想像する結果,「今のキャリアでもなんだかんだやっていけそうじゃないか」とか「もしかしたら転職先でうまくいかず,ダメダメになってしまうかもしれない」という”現状維持を許す言い訳”をいくらでも立てようとすることに気づく.損切りできない投資家が,損失を出している銘柄に対して「これはこういう理由で回復するはず」と当初思っても見なかったストーリーで自分を納得させるようなことと同じようなことをしている.その末路と照らし合わせると,この現状維持は危ないのだ.

人間は合理的な意思決定を下すことができない性質があることが社会心理学行動経済学の研究によって実証されている.自分の思考を一歩引いて見つめ直すことで真の意味で自分のためになる意思決定ができることを期待し,自分の考えを文字に起こしてみることにした次第である.

筋が通らないこともうまく丸め込む力,認知的不協和.太古から人間に搭載されたこの機能は何かしら有用性があったはず.

ある事象Aとそれとは一貫性が成り立たない事象Bに直面したときに感じる,心の不快感のことを社会心理学用語で認知的不協和という.情報技術の飛躍的進歩とそれにともなう被曝情報量の指数関数的増加は私たちに日々認知的不協和をもたらす.知覚した物事全てに一貫性を与えようとすると必ず何処かで矛盾が起きてしまうからだ.SNSで見かけたつぶやきAとメディアで放送されたニュースBの辻褄が合わないことや,ある政治家に対する自分の中の評価Cとその政治家の実社会での行動や成果Dが結びつかないと人はものすごくもやもやしてしまう. 


認知的不協和という機能を人間が持っているということは,これが人間の生存に必要なものとして進化してきた,つまり何らかの理由で生存に役立ったといえる.これは「進化医学」という学問を支える考え方となっている.進化医学では,人間に備わっている機能は不都合な事象も含め,太古からの人間の進化の過程で何かしら意味があったはずだと考える.

例えば,これは想像の域を出ないけど,あるオスがあるメスに対して求愛行動をとったとする.オスは当然求愛行動の見返り(交尾など)を期待しているわけだけど,それが叶わないことも往々にしてある.もしこのとき認知的不協和が発現して「あのメスには子供を孕む能力がなかったんだ」とか「あのメスは自分の魅力がわからないんだ.そんなメスと子孫を残してもしょうがないじゃないか」とすっぱい葡萄的講釈を垂れ,切り替えることで次のメスに早々にアプローチできたかもしれない.成功確率が0%の求愛を絶えずしていたらそのオスは自分の子孫を残すまでもなく死んでしまう.つまり,そういう遺伝子は自然淘汰の敗者となる. 


「サピエンス全史」ではホモサピエンス(我々)が地球を支配できた理由の一つとして,虚構をイメージしそれを共有し合うことができるホモサピエンスの能力が集団の組成,統治を可能にしたと紹介しており,それが村落から地球規模に広がって行った様子が紹介されている.ここでも理想と現実の折り合いをつけるために神や預言者,死後の世界,皇帝の絶対的な支配力といった虚構を「でっちあげる」能力や,虚構と虚構の矛盾に衝突したときの解決方法として認知的不協和が役に立ったんじゃないだろうか. 


認知的不協和とはうまく付き合っていかないと現実を正しく理解し対応できなくなる.

SNSを見ていると現実世界で起きていることと頭の中で描いた空想世界とのギャップが広がりすぎて,あることないことを大声で叫ぶ人があまりにも多い.先日も「広島の原子爆弾は実は地上から打ち上げられている.これは陰謀だ」といい歳をした大人が歴史的史実や科学的事実と矛盾するツッコミだらけの発言をネット上でして話題になった.

おそらくこの人の頭の中では陰謀論と一般的には言われる,絶対的な悪が世界を裏から支配するしているという善悪二元論的世界観があり,それを現実に当てはめてしまうんだろう.もちろんそこでは現実と空想の一貫線が保たれないのでそのストレスを緩和するために,自分の意見に都合が悪い情報はそれが真実であってもシャットアウトするし,真偽が明らかでないけど直感的に受け入れられる情報をすんなり受け入れてしまう.そうしてその人の世界観はさらにさらに偏屈極まりないものになり現実世界を正しく認識できなくなる.ある物事が「そうである」(現実)と「そうあるべき」(理想)はまったく別次元の話なのだ.

その人を見ていると,自分の思索を出来る限り俯瞰することの重要性を反面教師として教えてくれる.空想という形があわないパズルのピースを現実というスペースに当てはめようとしたらうまくいかないのは当然なので,その精神的負荷と延々と付き合う羽目になるし,何より単純に人々を煽動する虚偽の発言をして,周りに迷惑をかけることはみっともない.そういう人とは建設的な議論をすることなんてとても期待ができない.そっとミュートするしかない.

謙虚さというセンサー,ストレスは何かを発見するサインかもしれない,認知的不協和に振り回されないため.

認知的不協和に過度に振り回されないためにはどうしたらいいんだろうか.以下のことを心がけてみるのはいいかもしれない.①事実と空想を区別する:今自分が取り扱っている事柄は事実か?空想か?,空想と空想,事実と空想をぶつけていないか?②本来の目的を思い返す:その思索の真の目的は何か?,痛みを伴う選択であっても長期的にみたら報われる選択,つまり期待値的に正しい意思決定を心がけられているだろうか.③ストレスや違和感を無視しない:転職の施策がそうであるように思考が袋小路になっている時は考えているふりをして答えが出さずに悩んでいるだけかもしれない.結論を出さなければいけない問いがあったときに悩むことは何の意味もない.こういうストレスや違和感は自分の思索を振り返ってみろというサインかもしれない.

チープなビジネス本に書いてあったことが実践できないように,一度読んだり書いたりしたからと言って人間の本能に染み付いた行動に反旗を翻すのは大変難しいだろう(だからチープなビジネス本は同じような内容のものが絶えず出版される.ダイエット本や語学の”勉強法”の本も然り).日々,地道に,謙虚に,己の行動や思索を振り返ることを続けるしかないんだろう.

参考

サピエンス全史は度々紹介しているが,それだけ気づきや応用が可能なアイデアが詰まっている良書としてお勧めしたい.歴史や固有名詞に疎い人には少し読み進めるのが大変という人にはAmazonAudibleで聴くのがお勧めだ.

Audibleは私も登録をしていたが耳の隙間時間に良質な情報を詰め込められて非常に満足度が高い.コロナ禍による運動不足解消でよく散歩をするようになったがそのときのお供として最高だ.通常状態に戻っても通勤のストレスを減らすツールとして非常に期待している. 退会ペナルティなし+好きなオーディオブック1冊無料のキャンペーンをよく開催しているのでそういう時を狙って登録をするとデメリットなしでオーディオブックの良さを体験できる. (ちなみに退会をしてもそのオーディオブックは聴き続けられる)

人間が合理的に行動できないということを実証した厳密な研究がわかりやすくまとめられた本.人間の思考のバグをつくことをビジネスに活かすという文脈でビジネス書としてお勧めされることも多い.

転職についてはまた何か動きがあれば書きたいと思う.

ではでは.